日本の高齢者の貧困率が、フランスの3倍以上ある理由 ―― 所得の四割は、まだ働いて得たお金でした

※当ページには広告(プロモーション)が含まれています。

やっしー隊長です。

会社員のころは外資系企業の営業で、タイ、中国、インドネシア、ベトナムへよく出張しました。

どこへ行っても、日本より貧富の差が大きいと感じていました。上海のホテルの地下駐車場は、高級外車ばかりでした。

コロナの前に、上海で中国人と不動産の話をしたこともあります。2000万円で買った区分マンションが1億円くらいになった、という話でした。

前回、うちの入居者の暮らしを数字で見ました。年金と医療が、その暮らしを月22万円のところで支えていました。

その支えは、厚いのか薄いのか。日本の中だけを見ていても、そこは分かりません。

日本の高齢者の20.0%が、貧困線の下にいます。フランスは6.1%でした。

同じ年の、同じ数え方です。

並べてみると、出張先で私が見ていたのは、金持ちのほうでした。


目次

1. ここまでの4回で分かっていること

この連載は、江戸から令和までの日本の格差を、時代順に追ってきました。

第1回 ―― 江戸の農村は、イギリスより平等だった

584か村の土地台帳から、江戸の村では85%の家が田畑を持っていたことが分かっています。上の一割が持っていたのは、田畑の43%でした。同じころのイギリスやフランスより、平等な社会でした。

第2回 ―― 戦前の日本は、アメリカより格差が大きかった

1938年、上位1%が国じゅうの稼ぎの19.9%を取っていました。同じころのアメリカ・フランス・ドイツは約15%です。

第3回 ―― 平等になったのは、GHQの改革より先だった

その19.9%が、1945年に6.4%まで落ちています。占領が始まる前に、戦争そのものが資産を焼いていました。

第4回 ―― 過去最大の中身は、金持ちではなく高齢者だった

厚生労働省の所得再分配調査で、税と社会保険料を引く前のジニ係数は33年で0.15上がりました。引いて年金などを足したあとのジニ係数は、0.018しか動いていません。上がった分の六割は世帯の高齢化でした。

そして、税金と社会保険料を引いて年金などを足したあと、高齢者世帯の所得は213.8%増えます。母子世帯は5.6%です。日本は、高齢者をいちばん多く助けていました。

世界のなかでは、その高齢者の20.0%が貧困線の下にいます。


2. 国どうしを並べるときの数え方

第4回まで使っていたのは、厚生労働省の所得再分配調査です。世帯を単位に数えて、医療や介護の現物給付まで足した「再分配所得」で見ていました。

国どうしを並べるときは、この数え方が使えません。医療や介護の数え方が国ごとに違うからです。

代わりに使うのが、OECDがそろえている数え方です。世帯ごとではなく、ひとりずつ数えます(世帯の所得を人数で調整します)。前回は医療や介護を足した額も見ましたが、今回は足しません。

第4回と同じで、ひとりのお金を二回数えます。

一回目は、給料と商売のもうけだけです。税金を引く前で、年金ももらう前の額になります。

二回目は、そこから税金と社会保険料を引いて、年金や手当を足したあとの額です。財布に入るお金がこれにあたります。

第4回に出てきた0.3825と、これから出てくる0.338は、別の数え方による数字です。並べて増えた減ったを言うことはできません。

差の大きさは、ジニ係数という数字で表します。0に近いほど、みんなの額がそろっています。

貧困線は、その国で所得がちょうどまん中の人を見つけて、その半分の額に引いた線です。線より下にいる人の割合が、相対的貧困率になります。国どうしで金額をそろえた線ではありません。


3. 稼いだお金だけで数えると、どの国もほとんど同じです

まず一回目、給料と商売のもうけだけで数えたジニ係数です。

一回目のジニ
フィンランド20240.523
英国20230.522
フランス20230.517
日本20210.513
イタリア20230.509
米国20230.506
ドイツ20230.497
オランダ20240.458
デンマーク20220.442
豪州20200.441
カナダ20230.433
ノルウェー20230.432
スウェーデン20240.431
スイス20230.398
韓国20230.392

日本・アメリカ・イギリス・フランス・ドイツ・フィンランド・イタリアの7か国は、0.497から0.523の間に収まっています。

給料と商売のもうけだけで見ると、日本もアメリカもフランスも、差の大きさはほとんど変わりません。

「日本は稼ぐところまでは平等な国だ」という言い方をよく聞きますが、いまはそうなっていません。


4. 税金を引いて年金を足すと、差が開きます

二回目で数え直すと、こうなります。

一回目二回目縮んだ割合
米国20230.5060.39422%
英国20230.5220.36730%
日本20210.5130.33834%
イタリア20230.5090.32536%
韓国20230.3920.32318%
豪州20200.4410.31928%
スイス20230.3980.31521%
オランダ20240.4580.31132%
ドイツ20230.4970.30738%
カナダ20230.4330.30629%
フランス20230.5170.29942%
スウェーデン20240.4310.28933%
フィンランド20240.5230.27947%
デンマーク20220.4420.27638%
ノルウェー20230.4320.25940%

一回目は0.392から0.523の間に収まっていました。二回目は0.259から0.394まで開きます。

日本の0.338は、OECDが出している41か国のうち12番目に大きい数字です。G7だけで並べると、アメリカ0.394・イギリス0.367の次にきます。

⚠️ この表の15か国は、G7と北欧を中心に私が選んだものです。順位は、OECDが出している国すべてで数え直しています。

縮んだ割合で見ると、フランスは42%、フィンランドは47%、日本は34%です。

一回目はほとんど同じだった日本とフランスが、二回目では0.338と0.299に分かれます。

稼ぐところまでは同じで、そのあとの配り方で分かれます。


5. 100人の国で、上から10番目は下から10番目の何倍か

ジニ係数は、0.338と言われても大きさの分かりにくい数字です。もっと分かりやすい数え方があります。

大人が100人だけ住んでいる国を考えます。所得の高い順に並べて、上から10番目の人と、下から10番目の人を比べたものが次の表です。

何倍か
米国20236.36
日本20215.19
韓国20234.79
英国20234.52
イタリア20234.34
豪州20204.30
カナダ20234.04
スイス20233.79
ドイツ20233.78
フランス20233.52
フィンランド20243.33
スウェーデン20243.30
オランダ20243.25
ノルウェー20233.07
デンマーク20223.00

デンマークで3.00倍、フランスで3.52倍、日本で5.19倍、アメリカで6.36倍です。


6. 日本の貧困は、子どもより高齢者に偏っています

どこに差が出ているのか。年齢で分けると、はっきりします。

この表はOECDのPensions at a Glanceから取ったもので、載せた12か国はどれも2022年でそろっています。

65歳超76歳以上全年齢
韓国39.7%54.0%14.9%
米国22.9%26.7%18.1%
日本20.0%24.1%15.4%
英国15.0%18.8%12.6%
ドイツ12.6%11.0%11.8%
イタリア12.0%12.7%12.2%
スウェーデン7.3%8.6%8.0%
フランス6.1%6.7%8.3%
デンマーク5.0%6.4%6.3%
フィンランド4.8%5.7%6.8%
オランダ4.6%6.5%7.0%
ノルウェー4.1%5.2%8.0%

この12か国のうち、高齢者の貧困率が全年齢より高いのは5か国です。韓国・アメリカ・日本・イギリス・ドイツ。

残りの7か国は逆で、高齢者のほうが低くなっています。ノルウェーは全年齢8.0%に対して、高齢者は4.1%です。

日本は全年齢15.4%に対して高齢者20.0%、76歳以上では24.1%です。

子どもの貧困率は、低いほうです

高齢者だけを出すと、日本を悪く見せる形になります。子どもの貧困率は、次のようになっています。

子どもの貧困率
米国21.1%
英国15.8%
イタリア14.5%
カナダ14.0%
豪州13.3%
フランス12.0%
日本11.5%
スイス9.1%
ドイツ9.1%
オランダ8.6%
韓国8.5%
スウェーデン8.4%
ノルウェー6.9%
フィンランド6.6%
デンマーク4.2%

日本の11.5%より高い国は、この15か国のうち6か国です。アメリカ21.1%、イギリス15.8%、イタリア14.5%、カナダ14.0%、オーストラリア13.3%、フランス12.0%。

国内の最新の調査では、2024年に11.0%まで下がっています。

日本の貧困は、子どもではなく高齢者に偏っています。


7. 高齢者の所得の四割は、まだ働いて得たお金です

なぜそうなるのか。高齢者が何でお金を得ているかを見ると、分かります。

65歳を超えた人たちの所得を100として、それを何から得たかで分けたものです。公的な移転とは、年金や手当のことです。

公的な移転働いて得た資産企業年金
フィンランド80.7%9.9%9.4%0%
フランス78.1%6.9%15.0%0%
イタリア74.0%20.7%5.4%0%
ドイツ66.1%20.1%10.0%3.9%
ノルウェー59.1%19.3%6.9%14.7%
スウェーデン50.3%16.3%15.0%18.4%
日本50.0%40.0%8.0%2.0%
デンマーク43.2%20.2%22.0%14.7%
英国42.5%14.8%12.9%29.7%
オランダ40.3%12.8%8.1%38.9%
米国38.3%33.2%23.2%5.4%
韓国29.1%49.9%21.0%0%

※ 四捨五入のため、合計が100.1%になる国があります。

日本の高齢者は、所得の40.0%をまだ働いて得ています。

フランスは6.9%、フィンランドは9.9%です。

OECDが出している38か国のうち、日本より働いている割合が高いのは5か国しかありません。メキシコ50.9%、韓国49.9%、チリ43.0%、コスタリカ42.2%、スロバキア40.3%です。

G7だけで並べると、いちばん高いのが日本になります。アメリカ33.2%、カナダ24.6%、イタリア20.7%、ドイツ20.1%、イギリス14.8%、フランス6.9%。

公的な移転から来ているのは、日本の場合ちょうど半分です。フランスは78.1%、フィンランドは80.7%あります。

イギリスとオランダは公的な移転が40%前後と日本より低いのですが、企業年金が29.7%・38.9%あります。日本の企業年金は2.0%です。

デンマークも公的な移転は43.2%と日本より低い国です。ただし企業年金が14.7%、資産から入るお金が22.0%あって、働いて得たお金は20.2%にとどまります。65歳超の貧困率は5.0%です。

公的な移転の割合が低いことと、貧困率が高いことは、この表のなかでも一致しません。


8. 76歳から、所得が落ちます

働いて足している分は、働けなくなれば入ってきません。

国全体の平均を100とすると、その年齢の人たちはいくつになるか、という数字です。

66歳以上66〜75歳76歳以上
イタリア98.889.2
米国94.584.9
フランス94.397.789.9
ノルウェー89.697.978.7
スウェーデン88.975.8
フィンランド86.982.1
ドイツ86.686.586.7
英国84.090.875.6
日本83.991.575.9
オランダ81.272.7
デンマーク79.786.072.4
韓国68.276.256.6

日本は66歳から75歳までなら91.5で、平均に近い水準です。それが76歳以上では75.9まで落ちます。落ち幅は15.6でした。

フランスは97.7から89.9で、落ち幅は7.8。ドイツは86.5から86.7で、落ちるどころかわずかに上がっています。

貧困率のほうも、20.0%から24.1%へ上がります。

ただし、落ちること自体は日本だけではありません。そこは §12 に書きました。


9. いちばん多く配っているのは高齢者、それでも足りていません

第4回で、日本は税金と年金のしくみで高齢者をいちばん助けている、と書きました。

世帯の型税金と社会保険料を引いて年金などを足したあと
高齢者世帯+213.8%
母子世帯+5.6%
その他の世帯−3.5%

高齢者世帯の所得は3倍を超えます。母子世帯は5.6%しか増えません。日本の国内で比べれば、高齢者がいちばん多く受け取っています。

その高齢者を世界と並べると、所得の半分しか年金や手当からは来ていません。残りの40%は本人が稼いでいます。

この二つは別の調査の数字です。上の表は厚生労働省の所得再分配調査(世帯を単位に数え、医療や介護も足す)、下はOECD(ひとりずつ数え、医療や介護は足さない)。足したり引いたりはできません。それぞれの中での位置として読んでください。日本の中では高齢者がいちばん多く受け取っていて、世界の中では日本の高齢者がいちばん働いています。

いちばん多く配っていることと、足りていることは、別でした。


10. 高齢者の持ち家は八割、ただし245万世帯が借りています

ここで反論が来ます。日本の高齢者は家を持っている。所得が低くても家賃を払わなくていいのだから、同じには測れない、という話です。

そのとおりです。

総務省の令和5年住宅・土地統計調査に、世帯の型ごとの数字があります。

世帯持ち家借家
すべての世帯60.9%35.0%
高齢者のいる世帯81.6%18.2%
高齢者のひとり暮らし67.5%32.2%
高齢者のいる夫婦のみの世帯87.6%12.3%
高齢者のいるその他の世帯88.6%11.2%

高齢者のいる世帯は81.6%が持ち家です。すべての世帯の60.9%より、20.7ポイント高くなっています。

※ 持ち家と借家を足しても100%になりません。「どちらか分からない」世帯が、すべての世帯で4.2%(232万世帯)あるためです。

ただし、ひとり暮らしの高齢者だけを取り出すと、32.2%が借家に住んでいます。高齢者のいる世帯全体の借家の割合(18.2%)の、1.8倍です。

世帯数にすると、次のようになります。

世帯世帯数うち借家
高齢者のいる世帯2,375万世帯433万世帯
高齢者のひとり暮らし762万世帯245万世帯

高齢者のいる世帯の借家433万のうち、245万がひとり暮らしです。

うちの入居者です。


11. 資産で数えると、日本の順番は逆になります

所得で見ると、日本は差の大きいほうから3番目でした。

次の表は、その国の純資産をそれぞれの層がどれだけ持っているかの割合です。

上の1%上の10%下の40%
カナダ202312.3%47.1%3.9%
日本201913.2%47.3%1.2%
ベルギー202015.0%45.9%5.1%
フィンランド201915.2%49.6%1.6%
豪州202015.4%47.4%3.9%
オーストリア202116.3%51.5%1.8%
フランス202016.8%49.9%2.4%
ドイツ202117.7%55.5%1.1%
イタリア202020.1%54.6%5.1%
スペイン202122.1%53.2%3.9%
英国201722.6%52.0%3.6%
ノルウェー202222.7%52.6%−0.8%
オランダ202325.1%56.7%−0.4%
米国202237.4%75.1%0.6%
デンマーク202237.7%70.1%−3.7%

日本のいちばん上の1%が持つ財産は、全体の13.2%でした。OECDが出している29か国のうち、低いほうから6番目です。G7だけで並べると、カナダの12.3%に次いで2番目に低くなります。アメリカは37.4%あります。

金持ちに財産が集まっていないという点は、いまも変わっていません。

そのかわり、下から40%の人たちが持っているのは、全体の1.2%しかありません。

なお、純資産は住宅ローンなどの負債を引いたあとの数字なので、ノルウェー・オランダ・デンマークのようにマイナスが出る国があります。国によって調査のしかたと資産の数え方が違うので、細かい順位の上下は見ていません。


12. この数字で言えないこと

日本の高齢者は家を持っているから、所得が低くても平気ではないのか

持ち家率81.6%という数字は、そのとおりです。ただし持ち家でも屋根と外壁はいつか直しますし、固定資産税は毎年来ます。家賃の分がそのまま浮くという話ではありません。

そして高齢者のひとり暮らしの32.2%、245万世帯は借家に住んでいます。

持ち家が多いことを理由に、20.0%という数字を割り引いて読むことはできません。

まん中が下がれば、貧困線も下がるのではないか

そのとおりです。貧困線はその国のまん中の半分に引いた線なので、まん中が下がれば線も下がります。

第4回で見たとおり、日本のまん中の手取りは1997年の323万円から2024年の277万円へ、27年で46万円下がっています。線そのものが下へ動きました。

その下がった線で数えて、なお20.0%です。

働いている高齢者が多いのは、いいことではないのか

選んで働いているのか、働かないと足りないのか、この数字では見分けられません。

OECDのデータが示すのは所得の出どころだけです。その人が働きたくて働いたかどうかまでは分かりません。見分けられないので、どちらとも書いていません。

出張先で感じたことと、この数字はつながるのか

つながりません。中国・タイ・ベトナム・インドネシアは、今回使った表のどれにも入っていません。OECDの統計なので母集団が加盟国で、アジアで入っているのは韓国と日本だけです。

上海のホテルの地下駐車場と日本の高齢者の貧困率は、並べて比べることができません。書けるのは、私が何を見ていたか、というところまでです。

76歳で落ちるのは、働いて足しているからではないのか

そうとは書けません。落ちること自体は日本だけではなく、43か国のうち日本の落ち幅15.6は10番目でした。

次の表で、貧困率は76歳以上の数字、就労割合は65歳超の数字です。

66〜75歳76歳以上落ち幅貧困率就労割合
アイスランド103.877.526.31.1%32.2%
スウェーデン100.475.824.68.6%16.3%
ノルウェー97.978.719.25.2%19.3%
米国100.784.915.826.7%33.2%
日本91.575.915.624.1%40.0%

スウェーデンの76歳以上は75.8で、日本の75.9とほとんど同じ水準です。それでも貧困率は8.6%と24.1%で、三倍近く違います。

アイスランドは高齢者の就労割合が32.2%と日本に近く、落ち幅も43か国でいちばん大きいのに、76歳以上の貧困率は1.1%です。

同じくらい落ちても、貧困率が同じにはなりません。なぜ違うのかは、この数字からは分かりません。書けるのは、日本では76歳を過ぎたところで水準が下がり、貧困率が20.0%から24.1%へ上がっている、という事実までです。

相対的貧困率は、暮らし向きが苦しいという意味ではないのか

相対的貧困率が測っているのは、その国のまん中との差です。暮らし向きそのものではありません。

金額でそろえた線ではないので、「日本の高齢者はフランスの高齢者より貧しい」とは言えません。言えるのは、その国のまん中との距離が違う、ということだけです。

日本だけ年が古いのではないか

貧困率の表と高齢者の所得の内訳は、ここに載せた国はどれも2022年でそろえています。OECDの元のデータには43か国が入っていて、そのうち6か国は2016年から2020年のものです。載せた12か国は全部2022年でした。

ジニ係数と倍率の表だけは、日本が2021年、他の国が2020年から2024年です。日本の国内最新は2024年(相対的貧困率15.0%)なので、OECDの表の日本の値は1回分古いことになります。

なお、同じ日本でもOECDの中で年のラベルが違います。ジニ係数のデータベースでは2021年、高齢者のデータベースでは2022年です。どちらもOECDの表記どおりで、どちらかが誤りということではありません。

年金の額そのものを比べないのか

OECDには所得代替率という数字があります。年金が現役時代の手取りの何%になるかを示すもので、日本42.4%・フランス70.0%・韓国38.9%・アメリカ51.3%です。

ただしこれは、2024年に働きはじめた人が満期まで加入した場合の見込みです。いま受け取っている人の額ではありません。今回の貧困率とは測っている対象が違うので、使っていません。

年金にいくら使っているかを比べないのか

GDPに対する公的年金支出は、日本9.2%・フランス13.4%・イタリア16.1%・ドイツ10.8%・アメリカ7.3%・韓国3.8%です(2021年)。

この比率は高齢者の割合に強く左右されます。ノルウェーは日本より低い6.5%ですが、高齢者の貧困率は4.1%です。「配る量が少ないから貧困率が高い」と単純化できる数字ではないので、今回は使っていません。

なぜフランスは6.1%なのか

受給開始年齢や給付の設計といった制度の中身は、今回取っていません。

分かっているのは結果のほうだけです。フランスの高齢者は所得の78.1%が公的な移転から来ていて、日本は50.0%です。制度の違いを原因として書くことは、この数字だけではできません。

江戸の数字と直接は比べられません

第1回で出した江戸のジニ0.57は、土地という資産のジニです。今回の0.338は所得のジニなので、直接は比べられません。

比べられるのは「上の一割が持っている割合」だけです。


13. 上の一割が四割を持つ形は、江戸から変わっていません

比べられる形で並べると、こうなります。

時代上の一割が持っていたもの割合
江戸(1647〜1872年の村)田畑43%
令和(2019年の日本)純資産47.3%
米国(2022年)純資産75.1%

記録のいちばん古い1647年から数えて、三百七十年たっています。日本のこの形は動いていません。

途中で一度だけ大きく動いています。

上位1%の取り分
1938年19.9%
1945年6.4%
1990年8.05%
2005年9.2%

1938年から1945年で3分の1になりました。戦争が財産を焼き、そのあとの改革が土地を分けたためです。落ちたあとは四十年動かず、1990年代の後半から上がりはじめて、2005年で9.2%です。戦前の半分にも戻っていません。

この系列は2005年で終わります。同じやり方で数えたそれ以降の数字は見当たりません。

飛び抜けた金持ちが少ないという意味では、日本はいまも平等な国です。それは江戸から続いています。

変わったのは、いちばん下の人たちのほうでした。


14. 使った数字の一覧

本文の数字を、OECDが出している全部の国のなかで数え直した順位です。

項目日本全部の国G7
二回目のジニ(高い順)0.33841か国中 12位3位
上から10番目と下から10番目の倍率(高い順)5.1941か国中 8位2位
全年齢の貧困率(高い順)15.4%41か国中 8位
子どもの貧困率(高い順)11.5%41か国中 23位6位
65歳超の貧困率(高い順)20.0%43か国中 12位2位
高齢者の所得のうち就労(高い順)40.0%38か国中 6位1位(G7でいちばん高い)
76歳以上への落ち幅(大きい順)15.643か国中 10位
上の1%が持つ純資産(低い順)13.2%29か国中 6位2位
下の40%が持つ純資産(低い順)1.2%31か国中 6位

本文の表は、G7と北欧を中心に私が選んだ国だけを並べています。選び方で順位は動くので、順位を書いたところはこの全数で数え直しました。

使わなかった数字も残しておきます。所得代替率は日本42.4%・フランス70.0%(理由は §12)。GDPに対する公的年金支出は日本9.2%・フランス13.4%(同じく §12)。


15. 稼ぐところまでは同じで、そのあとの配り方が違いました

日本は、飛び抜けた金持ちが少ない国のまま、高齢者の20.0%が貧困線を下回る国になりました。その高齢者は、所得の40%を自分で稼いでいます。76歳を過ぎると、その分が入らなくなります。

私は年金を前提にしていません。強気だからではありません。この数字を見る前から、そういうものだと思っていました。

日本の高齢者の暮らしを支えているのは、半分が年金で、半分が本人でした。

上海の地下駐車場で私が見ていたのは、その国の金持ちのほうです。日本で足りていないのは、いちばん下の人たちのほうでした。

稼ぐところまでの差は、どの国もほとんど同じです。違うのは、そのあとの配り方だけです。配り方は、その国に住んでいる人が決めています。

家賃を受け取る側にいると、そこまでは見えません。毎月きちんと入ってくるので、入ってくることのほうを見てしまいます。


16. 連載を終えて

五回で、江戸から令和までの日本と、いまの世界を見てきました。

貫いていたのは、誰と誰の差がどれだけ開いたか、という一点です。水準が下がった話とは分けて数えました。


数字の出典

すべて一次資料を開いて中身を確認したものです。

・一回目と二回目のジニ係数、上から10番目と下から10番目の倍率:OECD Income Distribution Database

・全年齢と子どもの貧困率:同じデータベース

・高齢者の所得の内訳、年齢ごとの所得水準、年齢ごとの貧困率、公的年金支出のGDP比:OECD Pensions at a Glance

・所得代替率(今回は不採用):OECD Pension replacement rates

・上の1%と下の40%が持つ資産:OECD Wealth Distribution Database

※ OECDの4つは、いずれも統計配信の窓口(SDMX)から直接取得しています。取得に使った正確な宛先は、連載で使っているデータ集に記録してあります。

・高齢者の持ち家率、世帯の型ごとの内訳、世帯数:総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計 結果の概要」
https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2023/pdf/kihon_gaiyou.pdf

・世帯の型ごとの再分配:厚生労働省「令和5年 所得再分配調査報告書」
https://www.mhlw.go.jp/content/12605000/R05hou.pdf

・まん中の世帯の手取り、子どもの貧困率の国内最新値:厚生労働省「2025年 国民生活基礎調査の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa25/dl/14.pdf

・上位1%の取り分:森口千晶・Emmanuel Saez
“The Evolution of Income Concentration in Japan, 1886-2005”
https://eml.berkeley.edu/~saez/moriguchi-saezREStat08japan.pdf

・江戸の田畑の分かれ方:公文譲の研究
https://yuzurukumon.com/Kumon_DeepRoots.pdf


貧困率と高齢者の所得の内訳は、どの国も2022年でそろえています。ジニ係数と倍率の表だけは、日本が2021年、他の国が2020年から2024年です。

貧困線は、その国のまん中の半分に引いた線です。国どうしで金額をそろえたものではありません。

資産の数字は、国によって調査のしかたと資産の数え方が違います。年金資産の扱いや住宅ローンの計上方法で値が動くので、細かい順位の上下は見ていません。

第4回に出てきた再分配所得のジニ係数0.3825と、今回の可処分所得のジニ係数0.338は、別の数え方です。並べて増減を語ることはできません。

まん中の世帯の手取りは、物価の上がった分を除いて2024年のお金に直した額です。

※本記事は2026年8月時点の公開情報に基づきます。

読者特典
無料メルマガ登録で
「データ探偵 完全解説版」PDFをプレゼント
Haroの約18万件の物件データから、利回り・価格・エリアの実態を読み解く全12ページ。ブログより一歩踏み込んだ実践版です。
メルマガに無料で登録する
いつでも解除できます/確認メール方式(ダブルオプトイン)
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

不動産投資歴15年超 / 大家さん学びの会名古屋 支部代表 / AI 開発者 / 著書「FIREできる不動産投資3つのルール」(45才からいきなり始めて成功できる)。本名: 岡本 康 (ブルー・ソリューションズ株式会社 代表)。中立的立場で生成 AI ツール・不動産投資サービスをレビュー。

目次