※当ページには広告(プロモーション)が含まれています。
前回の予告どおり、今日は「東京」を追う —— だが、もっと大きな容疑者がいる
このシリーズは、不動産投資の「なんとなくの通説」を、私たちが運営する収益不動産プラットフォームHaroの物件データベース「R-DX」の統計分析データ(一棟もの・約18万件・日次更新)だけで検証していく企画だ。第1弾は「全国一律で値上がり」を崩して二極化を見つけ(第1弾)、第2弾は「何社が載せているか」で街の情報格差を(第2弾)、第3弾は業者の「重なり」は人気ではなく売れ残った時間だと暴いた(第3弾)。
その第3弾の最後で、私はこう予告した。「東京だけは、この傾向が崩れる気配がある。大都市は別の生き物なのか?」と。今日はその容疑者をきっちり追う。だが——その前に、もっと大きくて、もっと身近な容疑者がいる。「指値(さしね=価格交渉)が通る物件は、買う前に見抜けるのか?」という謎だ。
先に探偵としてのルールを明かしておく。ここで言う「値下げ」は、業者が売り出し価格を下げた事実であって、実際にいくらで成約したか(成約価格)は私は持っていない。だからここで見ているのは「これだけ引ける」という保証ではなく、「売主が折れやすい物件は、こういう顔をしている」という話だ。掲載が消えても売れたとは限らない。その上でなお、データはかなりハッキリ語った。
検証① 時間で尋問する —— 売れ残るほど、下がる
最初の質問はシンプルだ。「長く売れ残っている物件は、本当に値下げに向かうのか?」
意外かもしれないが、物件の約8割は、売り出し価格を一度も動かさないまま市場から消える。その多くは出てから1か月ほどで姿を消す“新着のまま”の層だ。ところが——居座った物件は、まるで話が違う。売れ残った期間ごとに、値下げが起きた割合(中央値ベースの集計)を並べると、こうなる。
| 売れ残り期間 | 値下げが起きた割合 |
|---|---|
| 2〜3か月 | 約36% |
| 4〜6か月 | 約41% |
| 7〜12か月 | 約49% |
| 13〜24か月 | 約55% |
きれいな右肩上がりだ。長く売れ残るほど、売主は市場の冷たい反応に向き合わされ、価格を見直していく。しかも面白いのは、「いくら下げるか」はあまり変わらないこと。下げ幅の中央値は、売れ残り期間の長短にかかわらずおおむね1割前後で安定していた。
ここまでで分かったのは、“下げるか否か”は時間で決まり、“下げ幅”はだいたい1割が相場ということ。では、次の容疑者だ。「長く売れ残っているのに、まだ一度も下げていない」物件は、どう読めばいい?
検証② 動かぬ証拠 —— “まだ下げていない物件”を、時間軸で追う
通説はこうだ。「まだ一度も下げていない=売主が強気で、最後まで下げない物件」。一見もっともらしい。本当にそうか?
そこで、価格の動きを月ごとに追える約1.4万件を、生存分析——医療で「この症状はいつ発症するか」を測るのと同じ手法——で尋問した。「まだ下げていない物件が、その後どれくらいの確率で下げるのか」を、時間を追って計算したのだ。結果は、通説をひっくり返した。
- 7か月、一度も下げずに居座った物件は、その後の64%が値下げに転じた(12か月でも59%)。
- 居座り続けた物件は、最終的に84%が一度は値下げする。半数はおよそ9か月で折れる。
- 折れ方には二つの波があった。出して3か月以内にサッと下げる「早期組」と、1年ほど我慢してから観念する「遅延組」(13か月を過ぎると値下げ確率が再び跳ね上がる)。
容疑者のアリバイは崩れた。“まだ下げていない長期滞留”は、強気の少数派ではなく「これから折れる多数派」だったのだ。
“まだ下げていない長期滞留”は、強気の証ではない。それは、夜明け前の「値下げ前夜」だった。
使い方はこうだ。長く出ているのにまだ一度も下げていない物件を見つけたら、それは「下がるのを待つ」場面ではない。指値の一番手として、先に名乗りを上げる場面である。
検証③ 場所で尋問する —— 東京は、やはり「別の生き物」だった
さて、予告していた容疑者だ。指値の通りやすさは、街によって違うのか? 東京23区と、主要な政令指定都市を並べてみる。
| 都市 | 値下げ実施率 | 値下げ幅(中央値) | 利回り(中央値) | 価格(中央値) |
|---|---|---|---|---|
| 仙台市 | 20.5% | 9.1% | 9.3% | 4,200万 |
| 名古屋市 | 19.4% | 7.0% | 7.8% | 7,375万 |
| 熊本市 | 19.4% | 8.8% | 9.2% | 5,300万 |
| 札幌市 | 19.3% | 8.1% | 9.2% | 5,200万 |
| 北九州市 | 17.4% | 11.3% | 11.3% | 3,177万 |
| 横浜市 | 16.0% | 6.8% | 8.0% | 5,980万 |
| 新潟市 | 15.9% | 14.7% | 13.0% | 2,000万 |
| 千葉市 | 15.5% | 7.0% | 8.5% | 4,880万 |
| 神戸市 | 14.7% | 11.1% | 10.5% | 1,500万 |
| 川崎市 | 14.4% | 6.5% | 7.7% | 7,437万 |
| 福岡市 | 12.7% | 6.3% | 7.5% | 6,200万 |
| 東京23区 | 12.4% | 7.6% | 7.1% | 8,000万 |
| 京都市 | 11.8% | 10.5% | 8.2% | 3,850万 |
| 大阪市 | 11.3% | 7.7% | 8.8% | 4,200万 |
| 広島市 | 11.0% | 12.1% | 8.3% | 5,445万 |
第3弾の予告は、当たっていた。東京23区は、指値がいちばん渋い街だ。値下げが起きる割合は12.4%と最下位級、利回りは最低(7.1%)、価格は最高(中央値8,000万)。買い手が多く、売主は強気でいられる。データ上、23区で1割引きを狙うのはかなり分が悪い。東京はやはり「別の生き物」だった。
逆に、地方の政令市(仙台・名古屋・熊本・札幌)は通りやすい。いずれも値下げ実施率が約2割。とくに新潟・北九州・神戸・広島は、下げるときの“幅”も大きい(中央値で1割超)。高利回りの市場ほど、指値も効くという構図だ。
そして、ここがいちばん実戦的な発見。同じ県でも、市によって大きく変わる。福岡市は12.7%(渋い)なのに、北九州市は17.4%(通る)。大阪市は11.3%(渋い)だが、堺市は13.8%。エリアを「府県」でひとくくりにすると、本質を見誤る。
もうひとつ。検証②の「値下げ前夜」が最も多い街は神戸・京都だった。「長く出ているのに、まだ下げていない」物件の比率が、他都市の倍前後で突出している。人気エリアゆえ売主が粘るが、その分これから折れる在庫が積み上がっている。前夜の狙い目が最も眠る街、とも言える。
念のための尋問 —— 「業者の数」は、もっと効く独立サインか?
探偵として、もう一人の容疑者も再尋問しておく。第3弾の主役だった「業者の重なり(掲載会社の数)」だ。「会社数が多いほど、さらに指値が通りやすい——時間とは別の独立サインなのでは?」という見立てである。
これは空振りだった。売れ残り期間をそろえて比べ直すと、会社数そのものによる値下げ率の差はほぼ消えた。やはり第3弾の結論どおり、掲載会社の多さは“売れ残った時間”が表に出た症状であって、独立した魔法のサインではない。見るべきは、あくまで①売れ残り時間と②未改定かどうか。会社の数は、その“見えやすい目印”として軽く使えば十分だ。(「多数社=囲い込みで買い叩ける」と煽る解説は多いが、データはそこまで言っていない。)
どんでん返し —— 指値は「度胸」ではなく「読み」
謎は解けた。指値が通る物件には、確かにサインがあった。覚えておく目印は、3つでいい。
- ① 売れ残り時間を見る——長いほど下がる。下げ幅はおよそ1割。
- ② “未改定×長期滞留”=値下げ前夜を狙う——7か月下げていない物件は、その後64%が下げる。
- ③ 街の性格を踏まえる——東京23区は渋く、地方政令市は通る。神戸・京都は前夜在庫が厚い。
指値とは、度胸でも交渉術でもない。“いくら下げてくれそうか”を、物件の顔から読む技術だ。
この検証の限界(探偵からの注意書き)
- これは掲載データから見える姿であって、売り出し価格 ≠ 成約価格。実際にいくらで売れたかは、また別の話だ。「値下げ」は売主が出し値を下げた事実であり、交渉の成功を保証しない。
- 掲載が消えても売れたとは限らない(取り下げ・媒介切れを含む)。
- 「値下げ前夜」は強い傾向だが、個別物件には例外がある。本当に強気で下げない物件もゼロではない。
- 「指値が通る=買い」では決してない。売れ残りには売れ残りの理由(立地・建物・権利)があることも多い。交渉余地は入口であって、結論ではない。
このデータは、どこから来ているのか —— Haro 収益不動産 統計分析データ
この記事のすべての数字は、私たちが運営する収益不動産プラットフォームHaroの物件データベース「R-DX」に蓄積した統計分析データ(一棟もの・約18万件、うち価格の推移まで追える約1.4万件)から来ている。価格・利回り・エリア・構造に加えて、「その物件が、いつから、いつまで、いくらで売りに出され続けてきたか」まで追えるのが特徴だ。
「平均利回り◯%」という大づかみの数字では、“その物件が何か月売れ残り、何度値下げされ、いま値下げ前夜にいるのか”までは絶対に見えない。1件1件の掲載履歴を積み上げて初めて、「この物件は、交渉のテーブルに着けるのか」が浮かび上がる。あなたが見ている物件の売れ残り日数・価格を動かした回数を、雰囲気ではなく数字で確かめてほしい。
▶ Haro(収益不動産プラットフォーム)| https://haro-app.jp
この記事のデータについて(必ずお読みください)
- 出典:Haroの物件データベース「R-DX」(市場に公開された一棟収益物件の情報を継続的に集計・分析したHaro独自のデータベース、日次更新)。本記事は重複を除いた約18万件を対象に、価格・値下げ率の外れ値を除外して集計し、価格の月次推移を追える約1.4万件で生存分析(初回値下げの起こりやすさ)を行った。
- 「値下げ実施率」=売り出し価格を初回から下げた物件の割合。「値下げ幅」「滞留」「利回り」はいずれも中央値。地域の数値は東京23区および主要政令指定都市の集計。
- 売り出し価格 ≠ 成約価格。実際に売買が成立した価格とは異なります。掲載価格ベースの分析です。
- データは匿名の集計値であり、個別の不動産会社名・物件は一切掲載していません。特定の会社の営業姿勢を批判する意図はなく、市場全体の傾向を統計的に示すものです。
- 本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の投資を推奨するものではありません。投資判断は個別物件の精査のうえ、自己責任でお願いします。
※本記事は2026年6月時点の公開情報に基づきます。
「データ探偵 完全解説版」PDFをプレゼント

