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Haro収益不動産データ解析シリーズ 第1弾
やっしー隊長(収益不動産データ分析 Haro / ブルー・ソリューションズ株式会社)/ 集計 2026年6月
このシリーズについて
不動産投資の世界には、「なんとなくの通説」が多すぎる。「いまは全国的に値上がりしている」「地方はもう厳しい」——本当にそうだろうか。
この連載では、私たちが運営する収益不動産プラットフォームHaroの物件データベース「R-DX」に蓄積された収益不動産の統計分析データ(一棟もの約17.9万件・日次更新)を、統計分析の視点で徹底的に読み解き、業界の通説を”実データ”で検証していく。雰囲気でもポジショントークでもなく、数字で語る。それがこのシリーズの約束だ。
第1弾のテーマは、利回りの二極化。さっそく、ひとつの「奇妙なデータ」から話を始めたい。
17.9万件のデータを5年分ならべたら、奇妙なことが起きていた
Haroの物件データベース「R-DX」には、いま約17.9万件の一棟物件が入っている。これを「いつ売り出されたか(掲載された月)」で5年分に切り分け、利回りの真ん中の値(中央値)を追いかけてみた。
すると、こんな数字が出た。
全国の中央値利回り:9.14%(2021年)→ 10.00%(2026年上期)
利回りが上がっている。利回りが上がる=家賃に対して価格が割安になっている、ということだ。教科書どおりに読めば「全国的に不動産は買いやすくなった」という話になる。
ところが、街ごとにバラしてみると、まったく逆の動きをする街がいくつもある。福岡市や名古屋市は、利回りが下がっている。利回りが下がる=値上がりだ。
全国平均と真逆を行く街がある。しかも、その街たちには明確な「共通点」があった。この記事は、Haroの実データだけを使って、その謎を解いていく。
まず、謎を解くための「ルール」を3つだけ
ここを外すと話が全部ひっくり返るので、先に土台を固める。統計分析では、結論より先に「測り方」を共有することがいちばん大事だ。
ルール1:利回りと価格は逆。
利回り=家賃÷価格。家賃が一定なら、利回りが下がった街は「値上がり」、利回りが上がった街は「割安化」。グラフでは、左(赤)に伸びるほど値上がり、右(青)に伸びるほど割安化を表している。
ルール2:「全国の利回り上昇」は”日本中が値下がり”という意味ではない。
これは、市場に出てくる物件の顔ぶれの変化(利回りの高い地方・築古物件がたくさん出てくる)も含んだ合成値だ。だから全国の数字はあくまで”入口”。本当の答えは、街ごとの差のなかにある。
ルール3:当てになる街と、参考程度の街がある。
標本(サンプル数)が多い街——福岡市・名古屋市・神戸市・大阪市・札幌市・横浜市・東京23区——は信頼できる。標本が小さい街(浜松市など)は参考値だ。さらに、木造とRC(鉄筋コンクリート)の両方で同じ方向が確認できた街には★を付けた。これは”本物”の動きと言える。
(平均値ではなく中央値を使い、極端な外れ値を機械的に除外し、サンプルの少なさを正直に開示する——この地味な作法こそ、データを誤読しないための生命線である。)
この3つを持って、謎に入る。
謎① なぜ「値上がり」する街があるのか —— 福岡市と名古屋市
グラフの左側、もっとも信頼できる★付きが2つ。福岡市(−0.78pt)と名古屋市(−0.31pt)だ。
福岡市は、答えがはっきりしている。人口だ。福岡市は政令市のなかでも人口の増加数・増加率がトップクラスで、いまも増え続けている。天神ビッグバン・博多コネクティッドという大規模再開発が雇用を生み、賃貸需要は旺盛。投資家が低い利回りでも奪い合うから、価格は上がる(=利回りは下がる)。地価も10年で約2.6倍、2025年の基準地価は商業地で前年比+10.2%。Haroのデータが示す「値上がり」と、世の中の地価データが、きれいに一致している。
名古屋市のキーワードは未来の交通だ。リニア中央新幹線の始発駅であり、名駅周辺の再開発が加速している(名駅エリアの地価は前年比+11.3%)。トヨタを筆頭にした製造業の底力もある。「これから便利になる」を先に織り込んで買われる街だ。
つまり「人が増える街・実需がある街は、利回りが下がる(値上がりする)」。これが第一の法則。
謎② いちばんドラマチックな”小さな街”の正体 —— 熊本市と半導体
ここで、目を引く街がある。熊本市(−0.78pt)。福岡市と並ぶ大きな値上がりだ(利回りの水準は熊本のほうが高いが、下がり幅は同じ−0.78)。
ただし正直に言うと、熊本市の標本は57件と小さい。ルール3でいえば「参考値」のはずだ。
——でも、熊本には誰もが知っている、とてつもない実需がある。半導体だ。
世界最大の半導体メーカーTSMC(現地法人JASM)が、熊本市の隣、菊陽町に巨大工場を建てた。その影響で菊陽町の地価は2025年に+14.5%、商業地は+17.4%で全国5位。賃貸物件の家賃も上がり、単身者向けでは熊本市が菊陽町を上回る勢いだという。第2工場の建設もすでに始まっている。
つまり熊本市の値上がりは、ただの統計のノイズではない。半導体マネーの波及だ。標本が小さくても、これだけ強烈な実需があり、地価も家賃も同じ方向を裏付けている。「小Nだけど本物」と読める、数少ない例である。
(読者からいただいた「熊本の値上がりは半導体の影響では?」という見立ては、データで見るかぎり当たりでした。)
謎②の落とし穴 —— では札幌市はどうなのか?
半導体といえば、もうひとつ巨大プロジェクトがある。北海道・千歳のラピダス(Rapidus)だ。千歳の商業地の地価上昇率は+44%で全国1位。熊本以上の爆発ぶりだ。
ならば、隣の大都市札幌市も大きく値上がりしているはず——と思いきや、データはこう言っている。
札幌市:−0.23pt。ほぼ横ばい。しかも札幌は標本322件の、信頼できるデータだ。
なぜ動かないのか。答えは「半導体の効果は超ローカル」だから。地価が爆騰したのは震源の千歳と、そのすぐ隣の恵庭・苫小牧まで。熊本市が値上がりしたのは、震源の菊陽町に隣接(約10km)していたからだ。一方、札幌市は千歳から約40km離れている。まだ波及していない。
ここに、実データを見る価値がある。「半導体の街=札幌」と早合点すると外す。データは”震源からの距離”を正直に語っている。
謎③ 逆に”割安化”した街 —— 神戸市の怪
今度はグラフの右側、青い割安化サイドを見る。意外な名前がいる。神戸市(+0.93pt/★本物)だ。木造単体では利回りが10.1%→12.0%まで上がっている。
人口も多く、ブランドもある神戸が、なぜ投資家に敬遠されるのか。
背景にあるのは、人口減少と「大阪のベッドタウン化」だ。象徴的なのが、神戸市が2020年の条例でタワーマンションの建設を中心部で事実上規制したこと。「これ以上ベッドタウンになって、数十年後に荒れたタワマンを抱えたくない」——人口が減る前提で街を守ろうとする、その姿勢自体が、神戸が人口流出と向き合っている証拠だ。
賃貸需要の伸びが鈍ければ、投資家はより高い利回り(=安い価格)でないと買わない。だから神戸市の一棟物件は割安化する。
「人が減る街は、割安化する」。これが第二の法則だ。
謎③の補強 —— そして”地価ニュース”の落とし穴
同じ構図の街は、ほかにもある。割安化サイドに並ぶ北九州市(+1.42pt)、新潟市(+1.35pt)、堺市(+1.77pt)。
- 北九州市は人口減少数が全国最多で、市制発足以来初の90万人割れが目前。
- 新潟市・堺市も、県・周辺の人口減と、大阪・東京の影に立つ街だ。
(※これらは標本がやや小さめなので参考値。それでも「人口が減る街は割安化する」という同じ法則の上にいる。)
ここで、いちばん面白い逆説を置いておきたい。
これらの街、実は地価公示はプラスなのだ。北九州+2.4%、堺+4.8%、新潟+0.77%。”地価ニュース”だけ見れば「上がっている、買い時かも」と見える。
でも、投資家が実際に買う一棟収益物件の利回りは、上がっている=慎重になっている。
土地の値段(地価公示は中心部の優良地が中心)と、投資家のホンネ(一棟物件の利回り)は、別物なのだ。ここが、地価ニュースには載らない、実取引データだからこそ見える景色である。Haroのような収益物件の統計データを持っているからこそ、ここまで踏み込める。
謎④ 東京23区という”天井”
最後に、すべての基準点。東京23区は全エリアで最低の7.0%。そして変化も小さい(−0.28pt)。
これは、すでに過熱しきって、もう大きく動く余地がない「価格の天井」を意味する。だから値上がりの主役は、もはや東京ではない。福岡市・名古屋市のような”次の中枢”へと移っている。グラフを見れば、天井(東京)からどれだけ離れた利回りで各都市が取引されているかが一目でわかる。
謎の答え合わせ
「全国の利回りが上がっている」の正体は、一律の値下がりではなく、二極化だった。
マネーは、人が増える街・実需がある街(福岡市・名古屋市・熊本市=半導体)に集中して利回りを押し下げ(値上がり)、人が減る街(神戸市・北九州市・新潟市・堺市)からは引いて利回りを押し上げる(割安化)。
謎を解くカギは、結局この3つに集約された——人口・再開発・半導体。
投資家として、どう読むか。値上がりした街は「出遅れると買えない」が、利回りは薄い。割安化した街は「高利回り」だが、その高さは人口動態が出口(売却・空室)リスクを警告しているサインでもある。どちらが良い・悪いではなく、自分の戦略しだいだ。少なくとも「全国的に上がっている/下がっている」という大雑把な話では、もう勝てない。街を、データで、一つずつ見るしかない。
このデータは、どこから来ているのか —— Haro 収益不動産 統計分析データ
ここまで読んで、「こんな分析、どうやってやっているのか」と思った方もいるだろう。
この記事のすべての数字は、私たちが運営する収益不動産プラットフォームHaroの物件データベース「R-DX」に蓄積した統計分析データから来ている。一棟収益物件 約17.9万件を毎日更新し、価格・利回り・エリア・構造を統計的に分析できる、国内でも数少ないデータベースだ。
「平均利回り◯%」「地価が上がった/下がった」——巷にあふれるこうした大づかみの情報では、投資家のリアルな動きは見えない。中央値で外れ値を排し、コホート(売り出し時期)でそろえ、構造別に裏取りする。そこまでやって初めて、街ごとの”本当の温度差”が浮かび上がる。
本気で収益不動産に取り組むなら、ぜひ一度、Haroのデータに触れてほしい。あなたが狙うエリアの「いま」を、雰囲気ではなく数字で確かめられる。
この記事のデータについて(必ずお読みください)
- 出典:Haroの物件データベース「R-DX」(市場に公開された一棟収益物件の情報を継続的に集計・分析したHaro独自のデータベース)の新規掲載分を集計。掲載時利回り=掲載価格ベースの表面利回りの中央値(外れ値3〜25%を除外、家賃を一定として掲載時点に換算)。標本は全国の新規掲載 計142,616件(2021〜26年・外れ値除外後)から、東京23区+政令市20市の主要21エリアを抽出。
- 掲載利回り ≠ 成約利回り。実際に売買が成立した利回りとは異なります。
- 2026年は上期(1〜6月)の暫定値。標本が小さい都市(小N)は参考値です。
- データは匿名の集計値であり、個別の不動産会社名・物件は一切掲載していません。
- 本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の投資を推奨するものではありません。投資判断は個別物件の精査のうえ、自己責任でお願いします。
参考(理由の裏取りに使った公開情報)
- 熊本・TSMC/JASM:菊陽町2025年地価+14.5%、商業地+17.4%(全国5位)、第2工場着工 / 楽待・健美家・地方経済総合研究所ほか
- 福岡市:人口増加全国トップ級、2025基準地価 商業+10.2%、天神ビッグバン / えんfunding・SBクリエイティブほか
- 名古屋市:リニア始発、名駅地価+11.3%、名駅・栄再開発 / HOME’S・健美家・日経ほか
- 神戸市:人口減少、2020年タワマン規制条例、大阪ベッドタウン化懸念 / 楽待・データのじかんほか
- 札幌・ラピダス:千歳 商業地+44%全国1位、震源は千歳・恵庭・苫小牧 / HTB・東洋経済ほか
- 北九州市:人口減少数全国最多・90万人割れ目前、基準地価+2.42% / 北九州市・ローカログほか
- 新潟市:県全体は30年連続下落も新潟市は+0.77% / 日経・新潟県ほか
- 堺市:公示地価+4.80%・南区など人口流出地区は下落 / tochidai・大阪府ほか
※本記事は2026年6月時点の公開情報に基づきます。
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