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今日は、自分の過去のメモを疑うところから始める
このシリーズは、不動産投資の「なんとなくの通説」を、私たちが運営する収益不動産プラットフォームHaroの物件データベース「R-DX」の統計分析データ(一棟もの・日次更新)だけで検証していく企画だ。第1弾は「全国一律で値上がり」という通説を崩して二極化を見つけ(第1弾)、第2弾は「その物件、何社が載せているか」で街ごとの情報格差を可視化した(第2弾)。
ここからは少しスタンスを変える。データ探偵として、「これが正解だ」ではなく「この見方が成り立つか、データに尋問してみる」という形で進めたい。仮説は容疑者だ。証拠(データ)の前で、シロかクロかが決まる。
そして今日の最初の容疑者は——過去の私自身のメモである。
第2弾の終盤で、私はこう書いた。「1物件を10社以上が奪い合う"過熱物件"が約3,600件ある」と。多くの会社が群がっている=人気で奪い合われている、という読みだ。一見、当たり前に聞こえる。でも、本当にそうか? たくさんの業者が扱っている物件は、本当に"奪い合われている人気物件"なのか? 今日はここに、データで踏み込む。
今日の容疑者(仮説)は3つ
読者の方からも、私自身の中にも、こんな仮説がある。どれも「もっともらしい」。だからこそ尋問する価値がある。
仮説A:「多くの業者が扱う物件=人気物件=お買い得(or 高く売れる)」
販売ルートが多いほど買い手の目に触れる。人気だからこそ何社も扱う。だから多社が扱う物件はお買い得の可能性が高い——という説。直感的にいちばん納得しやすい。
仮説B:「1社だけが扱う物件=安く買える」
逆に、たった1社しか載せていない物件は、競争相手がいない。だから相対で安く買える余地が大きいのでは——という説。これも一理ある。
仮説C(第2弾の私):「10社以上の物件=奪い合われる過熱物件」
冒頭で自首したとおり、過去の私のメモだ。重なりが多い=人気で取り合いになっている、という読み。
AとBは方向が逆、AとCは似ている。全部を同時に成り立たせることはできない。さあ、データに尋問しよう。
検証① 利回りで尋問する —— 「お買い得」なのは、どっちだ
まず、いちばん効く質問から。「業者の重なりが多い物件ほど、本当にお買い得(高利回り)なのか?」
Haroの一棟現役物件 約14万件を、1物件を扱う業者数で5つのバンドに分け、掲載利回りの中央値を並べた。
| 扱う業者数 | 件数 | 掲載利回り(中央値) | 価格中央値 |
|---|---|---|---|
| 1社 | 97,605件 | 9.50% | 3,500万円 |
| 2社 | 24,438件 | 10.00% | 3,465万円 |
| 3〜4社 | 11,285件 | 9.59% | 4,000万円 |
| 5〜9社 | 5,884件 | 9.20% | 4,980万円 |
| 10社以上 | 3,597件 | 8.47% | 6,100万円 |
ここで容疑者たちのアリバイが、いっせいに崩れる。
仮説A(多社=お買い得)は崩れた。 業者が多い物件ほど利回りは下がっていく(10社以上は8.47%で最低)。利回りが低い=割高、ということだ。「たくさんの会社が扱う物件はお買い得」どころか、いちばん割高だった。価格中央値も1社の3,500万円に対し10社以上は6,100万円と、明確に高い。
仮説B(単独=安い)も崩れた。 たしかに単独(1社)の9.50%は悪くないが、2社(10.00%)のほうがむしろ高利回りで、「単独だけが特別に安い」という構図にはなっていない。単独と複数(2社以上)をまとめて比べても、9.50% 対 9.60%でほぼ差がない。「1社だから安く買える」とは言えなかった。
仮説C(10社=奪い合う過熱物件)は、半分だけ当たっていた。 10社以上が最も割高(過熱)なのは事実だ。でも——「奪い合われているから高い」のだろうか? それとも、別の理由で高いのだろうか。価格の高さは確認できた。問題はメカニズムだ。ここから先が本番である。
検証② 掲載月数という"指紋" —— 重なりの正体が見えた
割高さの理由を探るとき、不動産で最も雄弁な証拠が「その物件が、どれだけの期間 売りに出され続けているか(掲載月数)」だ。さっきの表に、この列を足してみる。
| 扱う業者数 | 掲載月数(中央値) |
|---|---|
| 1社 | 1ヶ月 |
| 2社 | 4ヶ月 |
| 3〜4社 | 10ヶ月 |
| 5〜9社 | 12ヶ月 |
| 10社以上 | 16ヶ月 |
これは、きれいすぎる。業者が増えるほど、掲載月数がまっすぐ伸びている。1社の物件は中央値でわずか1ヶ月——つまり出たばかりの新着だ。一方、10社以上の物件は16ヶ月、1年以上売れ残っている。
ここで、絵が反転する。「10社が群がる」のは、人気で奪い合っているからではなかった。売れないから、次々と別の会社に持ち込まれ、扱う会社が積み上がっていった——その結果が「重なり」だったのだ。
業者の「重なり」は、人気メーターではなかった。それは"売れ残った時間"を数える時計だった。
最初に1社が預かる(だから7割は1社・新着)。3ヶ月経っても売れない。半年経っても売れない。困った売主は別の会社にも声をかける。それでも売れない。気づけば10社の名前が、その1物件の掲載履歴に並んでいる。重なりの正体は、これだ。
検証③ 動かぬ証拠 —— 値下げ「実績」と、交渉余地
まだ「たまたま掲載が長いだけ」という言い逃れの余地がある。だから、とどめの証拠を2つ突きつける。
証拠その1:値下げ実績のある物件の割合。
- 1社:8.8% → 2社:39.9% → 3〜4社:59.5% → 5〜9社:63.0% → 10社以上:67.1%
単独物件で値下げ履歴があるのは1割未満。ところが10社以上では、3軒に2軒が値下げを経験している。売れ残った時間が長いほど、売主は値段を下げて売ろうとしてきた——という生々しい履歴だ。
証拠その2:交渉余地スコア。(値下げ実績や滞留期間などから、価格交渉のしやすさをHaroが独自に数値化した指標。高いほど交渉しやすい)
- 1社:20.8 → 2社:73.4 → 3〜4社:119.2 → 5〜9社:160.5 → 10社以上:266.7
1社(新着)の20.8に対し、10社以上は266.7と13倍。重なりが多い物件ほど、価格交渉の余地が大きい。これで「重なり=売れ残り時間」は、ほぼ確定だ。
念のため、別の角度からも裏を取った。 「掲載月数が長いだけでは?」を潰すため、滞留期間を揃えて(新着同士・滞留同士で)比べても、なお業者の多い物件のほうが利回りは低かった(滞留物件の場合:1社9.64% → 10社以上8.68%)。構造(木造・RC・鉄骨)を揃えても、10社以上が全構造で最低利回り。つまり重なりは、単なる時間の言い換えではなく、「市場が何度も値付けを拒んだ物件」という独立した証拠でもあった。
行き止まりだった手がかり —— 「地元業者比率」を追ったが…
探偵の仕事には、空振りもある。正直に書いておきたい。
今回、もう一つ追いかけた筋があった。「地元業者が扱う物件ほど割安なのでは? 外部の業者ばかりが扱う街は割高なのでは?」——掲載している会社の所在地(事務所の住所)を解析し、街ごとに「地元業者比率」を出して、割安感との相関を取ってみた。
結果は——空振りだった。街単位で見ると、地元比率と利回りの相関はほとんど出ず(むしろ弱い逆相関)、犯人ではなかった。理由はおそらく、東京・大阪に事務所を構える大手が掲載の約3分の2を占めているため、「地元比率」が結局「その街が大都市かどうか」に化けてしまうからだ。手がかりとしては筋が悪かった。
こういう"消えた手がかり"こそ、データ検証の正直なところだ。きれいな仮説ほど、データの前では崩れる。だからこそ、崩れなかった「重なり=売れ残り時間」は信頼できる。
どんでん返し —— では「掘り出し物」は、どこにある?
ここまでで、最初の仮説は全部ひっくり返った。多社=お買い得でもなく、単独=安いでもなかった。では、結局どこを狙えばいいのか?
答えは、意外なところにある。割高なのは「10社以上・16ヶ月売れ残り」の物件——でも、その物件たちは同時に、値下げ実績67%・交渉余地スコア266という"もう一つの顔"を持っていた。
つまり、こういうことだ。
掘り出し物は「単独の新着」でも「多社の人気」でもない。"売主が疲れている物件"の、交渉余地の中にある。
掲載利回りという表に出ている数字だけ見れば、売れ残り物件は割高だ。だが、1年以上売れず、何社にも持ち込まれ、何度も値下げしてきた売主は、価格を動かす準備ができている。表面の利回りが低くても、そこから交渉でいくら引けるか——本当の妙味は、掲載価格ではなく交渉の余地のほうに隠れていた。
「人気だから多社が扱う」と思って飛びつくと、いちばん割高な売れ残りを掴む。逆に「売れ残り=ダメ物件」と切り捨てると、交渉余地という妙味を見逃す。重なりの数字は、避けるためではなく、"交渉のテーブルを読む"ために使う——これが今日の答えだ。
第2弾の自分へ —— メモは消さない。読み方を1枚足す
冒頭で自首した「10社=奪い合う過熱物件」というメモ。これは間違いだったのか?
半分はそのままでいい。価格が高い(過熱)という観察は当たっていた。 間違っていたのはメカニズムの読みだ。「奪い合われて高い」のではなく、「高すぎて売れ残り、何社にも回された結果"重なった"」のだった。同じ「重なり」という言葉が、見る縮尺で意味を変える。
- 街レベルで見れば(第2弾)、重なりは「その街の情報がどれだけ開かれているか」のメーターだった。これは今も生きている。
- 1物件レベルで見れば(第3弾・今日)、重なりは「その物件が売れ残った時間」の時計だった。
どちらも正しい。ただし混ぜると誤読する。第2弾のメモは消さない。その上に「物件単位では意味が逆転しうる」という付箋を1枚貼っておく——それが今日の事件簿の締めだ。
この検証の限界(探偵からの注意書き)
謎は解けた。が、これもあくまで一つの見方だ。過信しないために、限界もはっきり書いておく。
- これは掲載データから見える姿であって、掲載利回り ≠ 成約利回り。実際にいくらで売れたかは、また別の話だ。
- 「重なり=売れ残り時間」は全国の中央値で見た強い傾向だが、個別の物件には例外がある。本当に人気で短期に複数社が動いた物件もゼロではない。
- 「交渉余地がある=買い」では決してない。売れ残りには売れ残りの理由(立地・建物・権利)があることも多い。交渉余地は入口であって、結論ではない。
- そして次回予告をひとつ。今回は全国でならした。だが東京だけは、この傾向が崩れる気配がある(重なりが多くても利回りが落ちにくい=本当に動きの速い市場かもしれない)。大都市は別の生き物なのか?——それは次の事件で。
このデータは、どこから来ているのか —— Haro 収益不動産 統計分析データ
この記事のすべての数字は、私たちが運営する収益不動産プラットフォームHaroの物件データベース「R-DX」に蓄積した統計分析データから来ている。一棟収益物件を毎日更新し、価格・利回り・エリア・構造に加えて、「どの物件を、どの会社が、いつから、いつまで掲載していたか」まで追えるのが特徴だ。
「平均利回り◯%」という大づかみの数字では、"その物件が何ヶ月売れ残り、何社に回され、何度値下げされたか"までは絶対に見えない。1件1件の掲載履歴を積み上げて初めて、「この物件は、交渉のテーブルに着けるのか」が浮かび上がる。
本気で収益不動産に取り組むなら、ぜひ一度、Haroのデータに触れてほしい。あなたが見ている物件が、「出たばかりの新着」なのか「1年売れ残った末の重なり」なのか——雰囲気ではなく、数字で確かめられる。
▶ Haro(収益不動産プラットフォーム)| https://haro-app.jp
この記事のデータについて(必ずお読みください)
- 出典:Haroの物件データベース「R-DX」(市場に公開された一棟収益物件の情報を継続的に集計・分析したHaro独自のデータベース、日次更新)。本記事は一棟ものの現役掲載 約14万件を対象に、掲載利回り3〜25%で外れ値を除外して集計した。
- 「業者数(重なり)」=1つの物件の掲載に関わった不動産会社の数(同時掲載・掲載の入れ替わりを含む)。「掲載月数」「値下げ実績」「交渉余地スコア」は掲載履歴から算出した指標であり、媒介契約の種類(一般/専任)を直接示すものではない。
- 掲載利回り ≠ 成約利回り。実際に売買が成立した利回りとは異なります。掲載価格ベースの表面利回りの中央値で比較しています。
- 「交渉余地スコア」は値下げ実績・滞留期間等から弊社が独自に算出する目安であり、実際の値引き可能額を保証するものではありません。
- データは匿名の集計値であり、個別の不動産会社名・物件は一切掲載していません。特定の会社の営業姿勢を批判する意図はなく、市場全体の傾向を統計的に示すものです。
- 本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の投資を推奨するものではありません。投資判断は個別物件の精査のうえ、自己責任でお願いします。
※本記事は2026年6月時点の公開情報に基づきます。
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